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. 2022 Nov 30;33(12):1016–1021. doi: 10.1002/jja2.12750

COVID–19ワクチン接種後に副腎クリーゼ,たこつぼ心筋症を発症しショックとなり多腺性自己免疫症候群2型の診断に至った1例(A patient with post COVID–19 vaccination presented with convulsions and cardiogenic shock due to adrenal crisis and Takotsubo cardiomyopathy diagnosed with autoimmune polyendocrine syndromes type II and Addison’s disease)

久下 晶子 1,, 森下 幸治 1, 朝田 慎平 1, 中堤 啓太 1, 高山 渉 1, 木内 英美 2, 大友 康裕 1
PMCID: PMC9877992

ABSTRACT

A 49–year–old woman with a history of Basedow’s disease and vitiligo during her 30s was presented with 5 days of dizziness, nausea, and fatigue after being administered the third COVID–19 vaccination and transported via emergency medical service to the emergency department with sudden loss of consciousness and convulsions. Head and whole body computed tomography were normal but laboratory examination showed severe hyponatremia, which could be the cause of severe consciousness disturbance. Similar to what is observed in Takotsubo cardiomyopathy, echocardiography revealed a mid–ventricular and apical heart–wall motion, appearing as hypokinesis; in contrast, the basal segment showed preserved features. The left ventricular dysfunction caused the progressive hypotension and cardiogenic shock. Empiric treatment with corticosteroid considering the adrenal insufficiency, mechanical circulatory support with intra–aortic balloon pumping, and proper correction of hyponatremia were effective. The patient was extubated by day 7, leading to full recovery. Additional tests confirmed the diagnosis of autoimmune polyendocrine syndromes type II (Schmidt syndrome) and Addison’s disease. This case shows that adrenal crisis is caused by the vaccine’s stress and autoimmune reaction in specific individuals. Since it is an acute life–threatening emergency, early identification and prompt management is essential.

Keywords: Basedow’s disease, adrenal insufficiency, steroid therapy

はじめに

低ナトリウム血症に伴う重症意識障害の救急搬送症例では,全身状態の安定化に努め厳密なナトリウム補正を実施しながら原因検索を行うが,その背景に副腎不全が存在することがある。副腎機能低下症(アジソン病)に自己免疫性甲状腺疾患や1型糖尿病を合併した場合を多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndromes: APS)2型といい,性腺機能低下症,重症筋無力症,セリアック病や,白斑,禿頭,紫膜炎,悪性貧血,萎縮性胃炎,自己免疫性肝炎などの非内分泌腺疾患を合併しうる。20~30歳代女性に好発し,有病率は1.4~4.5/10万人と比較的稀な疾患である 1)。バセドウ病や橋本病の患者の100人に1人程度がAPS 2型の可能性がある。

APS 2型は複数の遺伝因子や環境因子が関与する多因子疾患と考えられている 1)ため孤発例が多く,また症状も多臓器にわたり発症も異時的であるため内分泌科医の目が届きにくいところであり,早期からAPS 2型と診断され関連疾患の可能性をフォローアップされている患者は少ない。

今回,COVID–19ワクチン接種を契機に初発の副腎クリーゼを発症した患者に対して,集学的治療を行い救命したうえで,APS 2型を疑い精査し,無事に内分泌科外来フォローアップにつなげることができた1例を経験したため報告する。

なお,論文掲載に関して患者本人に同意を得ている。本症例の内容は個人情報保護法に基づき匿名化しており,倫理委員会の承諾は必要ない。

症  例

患 者:49歳の女性

主 訴:意識障害

現病歴:搬送5日前に3回目のCOVID–19ワクチン(モデルナ社製)を接種した。その翌日夜からめまいと嘔気が出現し,近医で頭部CTと上部消化管内視鏡を施行され異常なく経過観察となるも,症状が悪化し体動困難となった。救急搬送当日,就寝中に奇声を上げ,意識障害,不穏を呈したため夫が救急要請し,当院に3次救急搬送された。

既往歴:32歳時にバセドウ病(1年間の内服加療で軽快),白斑病,37歳時に十二指腸潰瘍,48歳時に便秘症,貧血。

家族歴:父方叔母2名がバセドウ病,橋本病。

妊娠出産歴:妊娠歴なし。閉経39歳。

ワクチン接種歴:COVID–19ワクチン(ファイザー社製)1回目・2回目接種時には副反応はなかった。

来院時身体所見:身長158cm,体重48.6kg,バイタルサインはGCS E1V2M5,不穏,体温36.2℃,心拍数122bpm,血圧97/60mmHg,SpO2 98%(酸素6L)。眼球が上転しており両上肢が強直。瞳孔は3mm径で対光反射緩慢。顔面と四肢に広範な白斑を認める。眼球突出や甲状腺腫大,下腿浮腫は認めない。

検査所見(Table 1):心電図;心拍数102/分,洞調律,軸 −81°,不完全右脚ブロック,1度房室ブロック(Fig. 1),経胸壁心臓超音波検査;中部~心尖部にかけて著明な壁運動低下を認める。左室収縮率30~40%,中等度僧帽弁閉鎖不全症,中等度三尖弁閉鎖不全を認める。心嚢水なし,CT;頭蓋内病変なし。甲状腺や副腎に形態的異常なし。

Table 1.

Laboratory data on admission.

WBC 5,800 /µL CK 9,192 IU/L
RBC 468×104 /µL CK–MB 282.4 ng/mL
Hb 13.1 g/dL TroponinI 75 pg/mL
PLT 29.6×104 /µL NH3 85 µmol/L
D–dimer 0.5 µg/mL Glu 69 mg/dL
BUN 9.1 mg/dL CRP 0.43 mg/dL
Cre 0.68 mg/dL TSH 16.5 µIU/mL
Na 103 mEq/L FT3 3.25 pg/mL
K 4.8 mEq/L FT4 1.5 ng/dL
Cl 70 mEq/L
AST 172 IU/L U–Cre 35.1 mg/dL
ALT 59 IU/L U–Na 34 mEq/L
T–Bil 2.9 mg/dL U–K 15 mEq/L
LDH 363 IU/L

U–Cre: urine cratinine, U–Na: urine sodium, U–K: urine potassium

Figure 1.

Figure 1

The 12 lead–electrocardiogram on admission.

入院後経過:痙攣,重症意識障害に対して鎮静・気管挿管を施行した。Na 103mEq/Lと重度の低Na血症に対しては,3%NaCl液を利用しながら緩徐に補正を行った。急速に低血圧が進行し,高用量カテコラミン使用下でも不応性の血圧低下を認めた。来院6時間後の再検でトロポニンIが4,168pg/mLまで上昇しており,心原性ショック,3枝ブロック,徐脈発作に対して緊急カテーテル検査を施行した。冠動脈狭窄は認めず,左室造影にて,心基部は収縮良好であったが中部以下の壁運動低下を認め(Fig. 2),たこつぼ心筋症の所見であった。循環補助目的に大動脈バルーンパンピング(intra–aortic balloon pumping: IABP)と一時的ペースメーカーを挿入した。ワクチン接種後の劇症型心筋炎も鑑別に挙げ,心筋生検を提出したが活動性のある心筋炎は認めないと事後判明した。心内血栓予防のためヘパリン化を開始した。入院後に38度台の発熱を認め,髄液検査は循環動態不安定のため施行できなかったが,血液培養採取後に抗菌薬とアシクロビルを開始した。脳波上,明らかなてんかん波は認めなかった。バセドウ病の既往から甲状腺クリーゼも鑑別に挙げたがFT3,FT4は基準値内であった。ACTHやコルチゾールは来院日が連休前のため測定不可であったが,低ナトリウム血症,低血糖,循環動態不安定を一元的に説明しうる鑑別診断として副腎不全を考えステロイド補充(ヒドロコルチゾン200mg静注後に200mg/dayで持続静注)を開始した。

Figure 2.

Figure 2

The left ventriculography on hospital day 1.

第2病日には速やかに解熱し,心収縮力は改善傾向であり,カテコラミンも減量できた(Fig. 3)。心電図上の伝導障害も改善を認めた。心嚢水貯留もなく,心筋逸脱酵素もピークアウトしており,たこつぼ心筋症として矛盾しない経過をたどった。第3病日にIABPを抜去,第4病日に一時的ペースメーカーを抜去した。第5病日に頭部MRIと髄液検査を施行し,髄膜脳炎などの所見を認めなかったため,鎮静薬と抗菌薬を終了したところ,意識レベルはGCS E3VTM6まで改善を認めた。第7病日に抜管後も全身状態が安定して経過したためICUを退室した。

Figure 3.

Figure 3

Clinical course in the acute phase.

The symptomatic severe hyponatremia was adequately corrected.

The steroid therapy proved effective in improving the hemodynamics and fever.

回復後に迅速ACTH刺激試験を行ったところ,テトラコサクチド(コートロシン®)0.25mg静注前と静注後30・60分後のコルチゾール値がいずれも0.3μg/dLと不変であった。その他内分泌機能検査の結果,原発性副腎皮質機能不全症と診断した。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗サイログロブリン抗体も強陽性であり,バセドウ病の既往と合わせて甲状腺自己免疫疾患が存在することと,白斑病,性腺機能異常を加味してAPS 2型の診断に至った。なお抗副腎皮質抗体も10titerと陽性であった。

考  察

原発性副腎不全(アジソン病)は結核感染率が減少してきた近年,自己免疫性副腎不全が最多原因であり,そのうち多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndromes: APS)が6割を占める。副腎機能低下症に自己免疫性甲状腺疾患(69~82%に合併,この場合をシュミット症候群という)や1型糖尿病(30~52%)を合併した場合APS 2型と分類され 2),性腺機能低下症,重症筋無力症,セリアック病や,白斑,禿頭,紫膜炎,悪性貧血,萎縮性胃炎,自己免疫性肝炎などの非内分泌腺疾患を合併しうる 3), 4)。有病率は1.4~4.5/10万人と想定されていて,女性に多く,20~30歳代での発症が主である。抗21水酸化酵素抗体や抗副腎皮質抗体が陽性となりうるが,特殊抗体であり病院によっては検査に制約がある 1)。なお本症例は,APS 2型の患者が,COVID–19ワクチンを契機に副腎クリーゼを発症したものであるが,ワクチンを打つ前は,明らかに異常と思うような発熱,倦怠感,脱毛,消化器症状などの副腎不全徴候の自覚はなかった。甲状腺ホルモン以外の血液検査測定歴がなく低ナトリウム血症などのデータは不明である。バセドウ病と白斑病を発症後,17年も経過してからアジソン病を発症したことに関しては,各疾患の発症時期に関してアジソン病と甲状腺疾患の間隔が短く,糖尿病もしくは白斑と甲状腺疾患の期間が最長だった 5)とする既報告とは異なっており,特異的な経過である。

ワクチンが副腎クリーゼの一因になりうる論拠として,副腎不全患者はCOVID–19ワクチン接種に伴い副腎クリーゼを起こす可能性があるため,ワクチン接種後の24時間でクリーゼ徴候を認めた場合にはグルココルチコイド投与量を2~3倍に増量することを推奨するという報告 6)や,インフルエンザワクチンとジフテリア・破傷風・百日咳ワクチン接種後に副腎クリーゼを来し自己免疫性副腎不全が発覚した症例報告 7)があるが,副腎クリーゼを起こす機序に関しては未解明である。ワクチン接種副反応で過剰なストレスがかかり糖質コルチコイド不足に陥る仮説が考えやすいが,ワクチンの免疫応答の過程で副腎に対する自己抗体が産生され,副腎機能不全が進行する可能性も否定できない。同じ自己免疫疾患で,COVID–19ワクチン後に自己免疫性肝炎を発症し関連性が懸念される症例報告 8)が複数存在しており,ワクチン接種後2~7日での早期発症も散見される。そもそもAPS 2型の病態には多くの段階が介在し,感染症など環境因子による抗原提示細胞の励起,HLAハプロタイプやCTLA4(cytotoxic–T– lymphocyte–associated protein 4)遺伝子の多型などにより制御されるT細胞の応答,標的組織へのリンパ球浸潤と自己抗体産生の順で起こると推測される 1)。感染症に限らずワクチンにおいても,特異臓器に対するこのような自己免疫応答が惹起され,素因のある自己免疫疾患の急速発症に関与する可能性が考えられる。

本症例のように,副腎不全やAPS 2型にたこつぼ心筋症を合併する例は少数ながら複数の報告がある 9), 10), 11)。機序として①糖質コルチコイドによる心筋保護のない環境下でのカテコラミン暴露が有害となる,②糖質コルチコイドが心筋細胞膜のカルシウム輸送機能の維持に必要である,③心筋小胞体でのphosphorylase活性低下により,グリコーゲン分解が傷害されると心筋興奮収縮の異常を来すとされる 11)。また,たこつぼ心筋症は性ホルモン異常が誘因になりうることが知られていて,閉経後女性に多い。本症例も早発閉経を認めており,発症の素因となった可能性がある。既報告例のいずれもステロイド補充にてたこつぼ心筋症の軽快を認めており,副腎クリーゼの早期認知およびステロイド補充が肝要と考えられる。

結  論

COVID–19ワクチン接種を契機に初発の副腎クリーゼを発症したが,集学的治療を行い救命しえた,多腺性自己免疫症候群2型の1例を経験した。

重度低ナトリウム血症に伴う重症意識障害,たこつぼ心筋症の診断で,挿管人工呼吸管理,厳密な電解質補正,IABP含む心不全治療を開始するとともに,副腎不全を鑑別に直ちにステロイド補充を開始したことで,後遺症なく救命に成功したと考えられた。

この論文の投稿にあたって本稿の全著者に利益相反はない。

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